人工膝関節全置換術(TKA)|正座や膝立ち、走る事は出来る?
2020/02/20
米国において、現在でも年間50万人以上に実施されている人工膝関節全置換術(TKA)。
日本においても年々増加の一途をたどっており、今では年間8万件にも及ぶ手術がなされているそうです。
人工膝関節全置換術(total knee plasty:以下TKA)とは、変形性膝関節症などによって生じた膝関節の変形や疼痛に対して、人工の関節に置換する手術です。
TKAに関する詳しい記事はこちら
→【変形性膝関節症】TKA術後のリハビリテーションって何をするの?
変形性膝関節症を生じると、変形はまだしも、荷重時の強い疼痛から歩行や階段昇降などの移動動作に障害が生じます。
これによって、日常生活動作全般に能力低下が生じるとともに、
「動くのが辛い…」
「何をするにも嫌…」
など、精神的なダメージも含めて、生活の質全体が低下してしまいます。
それに対して、TKAは、最大の効果として除痛が挙げられます。
手術後は、痛くなくなった脚でリハビリテーションを行い、再び生活の質を高めた日常生活に戻ることを目指します。
現在では、様々な医療機関で行われており、決して珍しい手術ではありませんが、病院や執刀医師によって、治療法や術後の生活指導などの指針もバラバラです。
そのため、
「術前と同じような生活をしても良いのか?」
という部分には疑問も残ります。
変形性膝関節症に関する記事はこちら
→変形性膝関節症(膝OA)とは?治る疾患なの?リハビリテーションの内容は?
→変形性膝関節症|ヒアルロン酸注射って効果があるの?
→変形性膝関節症とは!手術やその後のリハビリは?
術後の生活は?
TKA後に日常生活を再び送り始めた時に、今までと同じように生活をして良いのだろうか?
という部分には疑問が残り、自分で判断することは難しいです。
特に膝が関係する動作としては、
・正座
・膝立ち
・走る
などでしょうか?
→人工膝関節全置換術後の日常生活動作(ADL)に必要な膝関節可動域とは?
正座は出来る?
TKA後のリハビリテーションにおいて、最も重要な課題とも言えるのが関節可動域の獲得です。
もちろん術前の重症度やその人の今後の生活状況にもよりますが、概ね目標としては120°が挙げられます。
これは、一般的な生活を送る上で階段昇降などを視野に入れた際に必要な角度です。
一方で、正座に必要な角度は、150°以上と言われています。
では、「正座をしたければ150°を目指せばいいではないか?」
とお思いかもしれませんが、人工の膝関節が許容している屈曲(曲がり)角度は、その種類にもよりますが、120°-130°程度と言われています。
そのため、無理に行おうとすれば人工関節の緩みや破損が生じるリスクもあります。
中には正座にも対応出来る人工関節もあるようですが、原則として正座は難しいと言わざるを得ないでしょう。
TKAのインプラントの種類によっては正座が可能な場合もあるようです。
詳しい記事はこちらをご参照ください!
→全人工膝関節置換術(TKA)のインプラントの種類は?PS型とCR型の違いは?
膝立ちは出来る?
畳など、床上で生活することが多い日本人にとって、「膝立ち」が出来るか出来ないかは重要な問題です。
人工関節にも幾つかの種類がありますが、構造上、大腿骨側と脛骨側の連結にPostと呼ばれる突起を採用しているPSタイプであれば、ポリエチレン製のPostに負荷がかかります。
一度膝立てをした程度で破損するわけではありませんが、日常生活における繰り返しの負荷や、その負荷の強度、動作方法などによっては、破損のリスクがないわけではありません。
ただし、膝立てに関しては、賛否両論あるようなので、必ず医師や理学療法士などの専門家に相談するのが良いと思われます。
走る事は出来る?
術前の趣味として、登山やスポーツクラブなどに通っていた方も少なからずいるでしょう。
普段の生活においても、小走り程度の動作を行う事は頻繁にある事です。
このような場合、特に注意が必要なのは、膝の過伸展(過剰に伸びる)です。
急な坂道や激しい登山などでは、着地の際に過剰に膝が伸ばされ、前述したPostの部分が破損する事があるようです。
ただし、走る事に関しても、その強度や頻度に依存する事があるため、必ず専門家に相談する必要があるでしょう。
人工股関節全置換術に関する記事はこちら
→人工股関節全置換術[THA]|脱臼のメカニズムと予防方法
→人工骨頭置換術とは?人工股関節全置換術との違いは?リハビリや脱臼肢位は?
まとめ
今回は、人工膝関節全置換術(TKA)後の日常動作に関して、正座や膝立ち、走るなどについて、本当に行えるのかについて解説しました。
答えを言うと、一概にYes,Noは言えません。
その人の生活の中での、頻度や強度、動作のクセやパターンなどから、破損のリスクはないかなどを総合的に判断するしかないのです。
よって、必ず、入院中やリハビリテーションを受けている間に専門家に相談するようにしましょう。