人工股関節全置換術[THA]|脱臼のメカニズムと予防方法
2018/07/15
近年では、様々な関節症に対して、人工関節へ置換する手術方法が用いられています。
その代表的な方法として、人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)があります。
THAは、主に変形性股関節症や関節リウマチ、大腿骨頭壊死に対して股関節の機能再建のために用いられる手術です。
変形性股関節症に関する詳しい記事はこちら
→変形性股関節症って治るの?原因や症状、治療方法とは?
また、先天性股関節脱臼などの既往があり、続発した変形性股関節症などに用いられることが多いです。
THAを行うことによって、多くは関節痛の消失、関節可動域の改善、術後のリハビリテーションでの筋力回復などによって歩行再建が図られます。
痛く苦しい生活から解放され、明るく活気のある生活に戻ることが出来る素晴らしい方法です。
ただ、一つだけ注意しなければならないことがあります。
それは、「脱臼」です。
股関節の位置についている人工関節が外れてしまい、歩くことはおろか、激痛が走り、最悪の場合、再手術がなされます。
多くの場合、術後のリハビリテーションにおいて、理学療法士などの専門職による指導が行われますが、家に帰ると「ついつい忘れてしまった」なんてことがあると思います。
そこで今回、THAの脱臼のメカニズムとその対策について紹介します。
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→変形性股関節症の手術療法とは?どんな種類や方法がある?
→変形性股関節症や人工股関節全置換術後のリハビリテーションとは?
Contents
脱臼の実際
THAの脱臼の発生率は、おおよそ1〜3%程度とされています。
初回のTHAでは2〜3%、再置換では4〜6%と言われるように、
一度脱臼すると再脱臼する危険が大幅に増加します。
また、脱臼しやすい時期に関しては、手術直後が最も関節自体の安定性も低い状態のため注意が必要です。
ただし、その時期にはあまり動くこともないので、実際には、自宅生活に戻ってから脱臼を生じてしまうことが多いのです。
3ヶ月以上が経つと関節の安定性もかなり高まってきます。
脱臼の原因や時期に関する記事はこちらもどうぞ!
→人工股関節全置換術後の脱臼の原因や時期は?
脱臼のメカニズム
それでは、なぜTHAでは脱臼のリスクがあるのかについて説明します。
股関節は、骨盤側の臼蓋というくぼみに、大腿骨の骨頭という丸い部分が収まっています。
変形性股関節症などによって関節が変性すると、この臼蓋と骨頭の隙間がなくなり、骨同士が擦り合って、疼痛を引き起こしたり、関節の可動域制限が生じるのです。
THAではこの臼蓋側に人工の受け皿を設置し、骨頭側にステムという人工のパーツを差し込みます。
ここで、差し込み方には、二つの手術手技があります。
「前方アプローチ」
「後方アプローチ」
です。
前面は足の付け根の前側から、後方はお尻の部分から切って挿入するのです。
いずれの方法でも、人工関節に置換させる際に、一度関節を脱臼させ、骨きりを行った上で人工関節を差し込むのです。
そのため、その際に脱臼させた足の方向に対しては、筋などの組織も緩んでいるため脱臼しやすいというわけです。
現在では、多くのTHAは後方からのアプローチで行われることが多いです。
脱臼の危険肢位
先に述べたように、脱臼には脱臼しやすい方向や肢位があります。
「前方アプローチ」では、股関節の伸展・内転・外旋方向です。
「後方アプローチ」では、股関節の屈曲・内転・内旋方向です。
それぞれ、単一の方向で脱臼することは稀ですが、複合的に組み合わさった場合にはかなり脱臼の危険が高まるので要注意です。
脱臼の対策
それでは、どのようにしたら脱臼を回避できるのでしょうか?
動くたびに、いちいち関節の方向を考えながら生活するのは大変です。
ですので、まずは脱臼が多い動作や姿勢について解説しながら対策について見ていきましょう
※ここでは、施行数が多い、「後方アプローチ」について述べていきます。
【靴履き動作】
靴を履く際には、椅子に腰掛けて履くことも多いかと思います。
この際に、身体をかがめて履いた時に膝が内側を向くと、股関節が脱臼肢位となり注意が必要です。
靴を履く際には、
・膝を外側へ倒しガニ股にして履く
・靴べらを使う
などの対策を行いましょう!
【正座や横すわりやとんぼ座り】
手術前より習慣的に行っている人は要注意です。
正座をするだけなら脱臼のリスクは低いですが、足が痺れて横すわりになったり、とんび座りになったりした際には脱臼のリスクは非常に高くなります。
やってみると分かりますが、正座になったり、それを戻すなどの際には意外にも足を様々な方向へ動かす必要があります。
必要でなければ、そのような姿勢はとらないほうが良いでしょう。
【床へのリーチやしゃがみこみ】
床に物が落ちた時にはどうしましょうか。
身体をかがめて拾う際には、要注意です。
股関節が過度に屈曲しながら、物をとる方向によって捻りの動きが加わると脱臼リスクが高まります。
もし、そのような方法で床から物を拾う際には、手術則を後ろに引いて、非手術側を一歩前に出した状態で行いましょう。
【転倒】
言わずもがな、転倒は一瞬の出来事です。
反射的に衝撃を回避するために様々な肢位をとります。
その際には、脱臼のリスクも高いだけでなく、人工関節周辺部の骨折などを合併することがあります。
必要によっては適切な杖などを使用し、転倒を回避しましょう。
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→杖の種類や特徴|適応や杖の選び方
【その他】
その他にも、
・靴下履き
・寝返り
・歩行時の振り向き
などには注意をしましょう。
「これはやってはダメ! これもやってはダメ!」
と動作自体を制限するのではなく、あくまでやってはいけないのは、脱臼肢位です。
ポイントは、股関節を深く曲げた状態で膝が内側に入らないようにすることです。
そのような肢位になっていないか一度自分の動作を確認してみましょう!
→人工骨頭置換術とは?人工股関節全置換術との違いは?リハビリや脱臼肢位は?
→人工股関節全置換術(THA)のリスクとは?脱臼・血栓症・感染に注意!
まとめ
THAの脱臼のメカニズムとその対策について紹介しました。
せっかくTHAを行ったのに、脱臼を恐れてあまり動かないでは本末転倒です。
正しい知識と理解で脱臼を予防していきましょう。
なお、どうやっていいか分からない場合などは、かかりつけの医師などに相談し、専門の理学療法士などからのアドバイスや指導を受けるようにしましょう。
予防で用いる「外転枕」の使用時期についてはこちら!
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